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2006/03/04

未完小説 その2(続き)

未完小説の続きです。全4回の2回目です。

今回、人が死にますので、そういう事に敏感な方は読むのをお控え下さい。


 

    2.死

 その日は曇り空で、今にも雨が降りそうな天気であった。
 るりかがロックと喫茶店で別れて帰る途中、ロックが窓越しに見送る中、横断歩道を渡っている時、誰も気付かぬうちに――空から何かが降って来た。
 ひゅうーと音がしたような気がした。
 光の矢のような物が無数に降り注いだように見えた。
 驚く暇も無かった。
 人の形をしていた物が、一瞬にして血の池と、その中に埋もれる肉の塊に変化した。
 外は地獄の有り様となった。
 空からかなりの高速で落ちて来た氷の矢が、肉と化した塊の上に突き立っていた。
 何が起こったのかロックには判らなかった。
 るりかが帰るのを窓から見ていたのに、そこにるりかはいなかった。
 彼女はいたのだが、瞬きもしない間に姿を変えていた。
 ロックの目の前で、るりかであった物が血の色の塊になってしまった。
 るりか――。
 ロックの心は凍結してしまった。
(何があったんだ)
 心の中をぐるぐる回る。
(いったい何が……)
 同じ言葉が繰り返される。目の前の事が信じられない。
 喫茶店の中で客の誰かが「きゃあーっ」と悲鳴をあげた。
 はっとロックは我に返った。
 心が戻った途端、駆け出していた。
「るりか」
 彼女の名を呼びながら、蹴破るように店の入口を飛び出し、今まで一度も出した事の無い様な速さで彼女の元へ走り寄る。
「るりか!」
 横断歩道の真ん中で倒れていた彼女を血が付くのも構わず抱き寄せた。
「るりか!」
 彼女はもう返事をしなかった。返事をしようにも、もう出来なかった。全身が血まみれになった彼女は、既にこの世の人では無かった。
「るりか!僕だよ。返事をして、るりか。るりか……」
 身体を揺さぶったが駄目だった。明るい栗色の髪も、表情のよく変わる眼も、口許も、華奢な身体も、氷が突き刺さって、血まみれになった肉塊に変わっていた。今日着てきた白いフレアスカートも、ずたずたに裂けて、赤黒い血に染まっていた。手に持っていたバッグも、履いていた靴も、飛んでいってしまって何処にも無かった。
「るりか、るりか、るりか……」
 何度も名前を呼んだ。信じたく無かった。死んでいるなんて、こんな姿になってしまったなんて。
 彼の見ている前で、彼女に突き刺さった氷が溶けて、血の池に混ざった。
「るりか……。るりか、るりか!……」
 涙がロックの眼から流れ落ち、視界をぼやけさせたが、彼女の姿の、嫌な血の色は消えなかった。
 ロックは彼女の顔の血をぬぐい去った。るりかのいつもの顔に、縦に深く裂けた傷が三本あった。表情に、驚いた様子も恐怖の色も無く、むしろ、今にも笑って、「何ともないったら……」と喋りだしそうであった。
 これは現実では無い、夢の世界、幻だ――ロックの心の声が話す。自分でも嘘だと思いたかった。だが、光景の生々しさが、嫌でも現実に引き戻した。
 彼女をもっと抱きしめた。
 強く。もっと強く。
 周りのパニックの様子も知らない。
 温かな身体が、冷たくなっても。
 信じたくない。
 警官が来ても、街頭のTVでニュースをやってても。
 そんなの信じられない。
 るりかは死んでなどいない……。

 その日、ニュースはこう告げた。
 戦争が始まった。A国が世界連邦に反乱を起こした――。
 るりかが死んだのが最初の攻撃だった。地球上の水蒸気を利用して氷の槍を落とす最新の兵器が使われた。この街一帯に氷の矢は降った。建物の中はそれほど被害は無かったが、屋外、ビルの谷間に矢が雨のように落ちた。外にいた人々はほとんど、亡くなってしまった。A国は開戦にあたり、新兵器は狙いがかなり正確で、威力を大きくして氷の矢を、氷の槍に、さらに氷の岩にして大規模な攻撃が可能であると宣言した。恐怖の時代の再来であった。このままでは人類は再び滅びへの道をたどってしまう。

 ロックは人類が自滅しようがどうでもよかった。るりかが目の前で死んでしまった事のほうが重大であり、悲しい気持ちを通り越して心のどん底にいた。
 るりかは死んだ。
 信じられる筈が無い。
 今まで話をしていた。また明日、会う約束をした。
 何より、彼女は微笑っていた。
 変わり果てた姿をるりかとは思いたくない。でも、自分は見てしまった。彼女が別の物になってしまった瞬間を。
 走っていた車に、矢が刺さった跡の穴が空いていた。車の中にいた人に、氷の矢は突き刺さって、車のガラスが真っ赤に染まり、血が飛び散っていた。
 血に染められた道路、様子のまるで変わらない高いビル。
 るりかを抱きしめたまま、涙でにじんだ眼でロックは空を見上げた。
 上を見ると小さく空が見えるだけのこの場所を、深い落とし穴のように感じた。どこまでも深い穴の底に突き落とされたようだった。
 空が、空であることが恨めしく思った。
 自分がここにいたのも、るりかと今別れたのも、引き止めず帰してしまった自分も、嫌だった。
 信じられなかった。
 ロックは茫然としていた。

 茫然としたまま、ロックは時を過ごした。
 あの後、病院へ連れていかれた。るりかは即死だった。ロックは傷一つ無かったが、心がここには無かった。
 病院へ、両親が心配して来た。
 彼女の両親も来た。一人娘だった。彼女の亡骸を見て、泣きじゃくった。ロックを責めたがどうしようも無かった。
 精神的なショックから、彼は大事を取って二、三日入院した。病院の無機質な壁と窓から見える空を見て過ごした。
 退院してすぐ、るりかの葬式があった。
 知り合いの葬式に出るのは初めてだった。あの日泣き尽くしてしまったのか、涙は出なかった。
 後は覚えていない。
 気が付くと、自分の部屋にいた。研究室と化した部屋の片隅のベッドに腰掛けていた。個人の部屋にしては広いのに、相変わらずのがらくたの山の中であった。彼にとっては大切な研究材料なのだが、他の人にはがらくたにしか見えない機材から逃れるような位置に、ベッドが置かれていた。
 首をうなだれ、うつむいた恰好でロックはベッドの上にずっと座っていた。
 食事もろくろく取らなかった。食べる気もしなかった。
 両親が――特に母親が、心配しているのが判っていた。どうでもよかった。
 目の前の研究を見ても、興味すら湧かなかった。
 毎日、部屋に籠もって過ごした。
 るりかの声ばかりが耳に聞こえた。
 初めて逢った頃のるりか。笑顔の眩しい彼女。
「ほんとはね。あなたのこと、ずっと前から知ってたの」
 大学への道を歩いていたとき、きょろきょろと目の表情を変えて嬉しそうに、
「いつもここを歩いてたでしょ。みんなで噂してたのよ。知ってた?」
「今日はどうもありがとう。あの……えーっと……また、あの……会ってくれる?」
 前の彼氏と別れるのに協力させられた後に、恥ずかしそうにうつむいて言った言葉。真っ赤になった顔を隠すように地面を見ていた彼女を思い出す。お互いに赤面して、自分で返事をした言葉のかけらも覚えていない。妙にぎこちない態度で二人の付き合いは始まったのだ。その頃、ロックは大学のある研究室で助手をやっていた。るりかは同じ大学の学生だった。
 同じ大学とは言ってもるりかの学部と、ロックの研究室とは場所もかなり遠いし、時間的にも合わなかったので、二人が会うのは休みの日が多かった。そんな時はいつも、たわいない話をして過ごすだけだったが、ロックには何よりも大切な時間だった。彼女のなにげない仕種が嬉しかった。彼女の眩しそうな笑顔を見るだけで良かった。
「ねえ、ロック。私ね」
 彼女は瞳を輝かせながら嬉しそうに言う。
 いろんな表情が心の中を目まぐるしく回る。
「私、一度でいいからウエディングドレス着てみたいの」

(僕は、どうすればいい?)
(彼女の為に、僕は、何をしたらいい?)
(何が出来る?)
(僕は何を、する事が、出来る?)
(君は何をしたかった?)
(彼女は、僕に、何を、望んでいた?)
(どうしたら、君は……)
(……)
(君の為に、君が……、彼女が……、君が)
(何の為に君が、君が、この世から消えてしまわなければならないのか?)
(僕は、君を)
(何か君へ出来る事、それは?)
(君の?)
(どうして……)
(彼女は)
(君は)
(どうしたら……)

 それから暫くして、ロックは彼女を忘れようとするかの様に、自分の研究に没頭し始めた。寝るのも惜しんで部屋の機械をいじくり回していたが、何日かがたち母親が心配して覗きに来たときには、既に彼の姿も部屋にあった機械さえも何もかもが忽然と消え失せていた。
 その後、彼の姿を見たものは誰一人としていなかった。

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コメント

いきなりヒロインが…(あ、ネタバレはまずいか?)という展開がショックでした。状況はひどいもののはずなのに、決してそうは思わせないArisiaさんの手法に脱帽です。
その分、主人公の悲しさがたくさん伝わってきますね。淡々としたその語り口に、説得力があります。
ぜひぜひ続きが読みたいです。早くアップしてねー(笑)。(^^)v

■Reinaさん
感想どうもありがとうございます(^^)

実は彼は主人公じゃないんですよね。
主人公(ヒロインとも言う)は次に出てきます。
ってうか次でいきなり違う話になってるし(^^;)

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